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貴女に溺れて彷徨う
第1章 眠り姫は魔法で目覚める
店に来るのは、ほとんどが場馴れしている客達だ。手入れして化粧すれば一定以上の見た目が手に入ると信じている、女達や男達。その自信が見せかけに過ぎない場合もあるにせよ、見せかけでも胸を張って見えるのだから、あたしからすれば変わらない。
「伊野せりなって、覚えてる?」
六月の暮れ、今度は優香を通さないでみなぎとの約束を取りつけたあたしは、素朴な和室で素朴な顔をいじっていた。
今日のみなぎは、紺色のカットソーに白いサブリナパンツを合わせている。秋なら赤を入れたいところだけれど、今日は明るめのコーラルをメインに色づけていく。
「はい、すごく細くて綺麗な人……」
「今同じ職場にいてさ、みなぎのこと印象に残ってたんだって」
「地味で暗いということでしょうか」
「歌が上手くておとなしい。ギャップが良いって言ってた」
「そう、ですか」
心臓の音が聞こえそうに静かだ。
化粧しながら時々視線をちらと落とすと、みなぎのタイトなカットソーを盛り上げたふくよかな胸が目に飛び込む。肉づきの良いウエストが、健康的な尻に続いて、脚は律儀に正座している。
みなぎは客を退屈させないための話をした。
今の配偶者とは会社勤めの行き帰りに出逢ったこと、スーツをよく預けていたこと──…短大を卒業して一般事務の仕事に就いたまでは良かったものの、そこの人間関係に馴染めなかったというよくある話に、あたしは頷く。