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貴女に溺れて彷徨う
第5章 見返りという甘い汁


 あゆみのために莉世は必要かも知れないのに、と、頭の遠くで私を咎める声がした。

 その場その場を妥当にやり過ごしてきた。
 派手な楽しみには手を出さないで、良くも悪くも周りに順応することに長けてきた私は、莉世の気まぐれにも振り回されて、世間の道徳を外れてしまうところだった。義務教育も終えていない子供の母親が、家庭を壊して良いはずない。そんな私は愚かかも知れないけれど、目の前に垂れ下がった蜘蛛の糸を怖れる私を評価してくれる人も、一定数いるはずだ。その一定数の人々に、私は今日まで報われてきた。


 周りに抗えないくせに、莉世の声には耳を塞げる。莉世の前では、背中を丸めなくても苦にならない。ありのままでいられる私は、とうとう彼女に連絡先も教えないで、解散までをやり過ごした。


 …──私がこんなに不幸なのに、煌びやかなものを見せつけないで。


 あゆみが不自然に思わないよう、マンションに荷物を取りに戻るまでの間、彼女とどこにでもいる友人を装っているのがやっとだった。
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