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貴女に溺れて彷徨う
第5章 見返りという甘い汁
* * * * * * *
こうも物事がこじれると、呪われてでもいる可能性を疑う。
翌週、あたしは睦のバーに転がり込むなり、泣きつく勢いでみなぎとの終始をまくし立てた。
営業を始めたばかりの店は、ひなたとあたし、そして店主の睦しかいない。
「呪われてる顔色には見えないよ。はい、フルーツサンドと紅茶。ひなたちゃんは柘榴ソーダね」
「有り難うございますぅ。いただきまーす」
店から移動している間、腹も喉も空っぽだと訴えていたひなたは、弾けんばかりの笑顔で両手を合わせた。ルビー色の液体も、色とりどりのサンドイッチも、スイーツのような彼女が手を伸ばすと絵になる。
苺の部分に齧りつき、咀嚼を始めた彼女のグロスに濡れた唇を横目に見ながら、あたしも夕餉に手をつける。パンの仄かな塩気に引き立つ、生クリームの甘い口どけと果物の酸味。強制的に人を至福に導くはずのスイーツが、非現実的に見える。
「だって、これでも毎回、初めてみたいに緊張して、告白してるんだよ。最初で最後ってくらいのプレッシャー、あるんだよ。人の気持ちなんて、数撃てば当たるものじゃないし。なのに」
「気持ちは分かるしつらいのも分かる。だから私は、少しくらい、莉世には他に運命の人がいるかもって、視野を広げて欲しいんだ」
「じゃあ、そいつが呪ってきてるんだ。みなぎとあたしを遠ざけるために。ここまで女に素っ気なくされたの、人生始まって以来ー……」
「逆にすごいよ。私なんて夜道で後ろ歩いてただけで、警戒心むき出しにされたことだってあるのに。それも他人に」
「他人なら良いじゃん。こっちは脈あると思ってた相手に、塩対応受けてるんだから」