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貴女に溺れて彷徨う
第5章 見返りという甘い汁
* * * * * *
みなぎがあの町を離れて窮した人物は、あたしの他にもいたらしい。
昨年末以来、Tenue de bouheurに久し振りに姿を見せた優香は第一声、行きつけのクリーニング店に張り出されていたテナント募集を嘆いた。もちろん、コスメブランドとは全く関わりのないクリーニング店のクレームが入ったところで、あたしには対処のしようがない。
優香の困りようが気の毒になって、あたしは一連の出来事を彼女に話した。すると案の定、いよいよ優香の沈痛な面持ちが度を増した。
「マジかー……」
「今は娘さんの小学校に押しかけないと、連絡つかない。ちょうど良かった。優香、行ってくれない?」
「私が行っても、莉世が行っても変わらないと思うよ。いっぱいいっぱいなんでしょ、稲本さんに悪気はないと思う。そういう状況なら、誰でもそうなる」
友人として話を聞いてやるくらいでも気を悪くしかねない、と言う優香に、そういうものかとあたしは適当な相槌を打つ。
ややあって、見知った常連客が視界の端に映った。
「いらっしゃいませ、大瀬様。先週はチーズケーキご馳走様でした」
「こんにちは。甘利さんってば、相変わらずよそよそしいんですから。莉世さんの方が、打ち解けやすいです?」
「まぁ、当時はしつこいなーって思ってたくらい、お世話になりましたから……」
かつての本音をオブラートにくるむのに必死だと言わんばかりのひなたの声が聞こえて、あたしは優香の責めるような眼差しを受ける。