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貴女に溺れて彷徨う
第5章 見返りという甘い汁


「まさか職場でナンパした?」

「抱えてるものが重すぎて、砕けたけど」

「稲本さん以上に重い子なんて、いる?」


 かくいう優香も、心配なのはスーツの預け先だけではない。
 再会した頃こそみなぎに言いたい放題だった優香も、彼女のマイペースなところは個性として好意的に受け入れていて、最近は明るくなってきた元同級生ともっと親交を深めたがっていたという。


「莉世にお弁当差し入れしたり、こういう店で買い物したり、高校の頃の彼女からしたら考えられなかったもの。知れば普通の人……っていうか、良い子だったんだなって」

「良い子すぎだよ。度の過ぎた良い子だから、あゆみちゃんの学費は任せて一緒に暮らそって言っても、切り替えられなかったんだろうけど」

「まぁ、友達相手にそれはキツイよ」


 友達としての提案ではなかったのだけど、という事実は飲み込んで、あたしは優香につられて溜め息をつく。

 響は春先の新作のサンプルを見終えたらしく、ひなたの接客トークに相槌を打ちながら、店内をぶらぶらしていた。


「あら、お友達の方じゃないですか」

「おっ、常連さん。ご無沙汰してます」


 目が合うなり、親しげに会釈し合う客達。

 響の素性に関して知るのは、ひなただけだ。厳密には上の身内でも、本人は相変わらず常連で通したがっている。
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