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貴女に溺れて彷徨う
第1章 眠り姫は魔法で目覚める
「高垣さんは、良いですね。お友達さんと一緒だったなんて、心強かったでしょう」
「変わり映えしなかったけどね。一年で辞めちゃったにしても、一人で始めたみなぎは偉いよ」
「私の場合、唯一の友達が親戚の家業の手伝うと言って田舎に行っただけです」
たかがアプリを使っただけで、高くついたものだと思う。収穫したのは運命の相手どころか、味わったこともないもどかしさ。
みなぎとよく一緒にいた女の子は覚えている。残り物同士が仲良くなったのだと、派手なグループにいた子達は、彼女達を笑っていた。
二人目の友達になれば良かった。或いは、彼女の通勤路にいたのがあたしだったら良かった。
「女が綺麗になれるとっておきの裏技、知ってる?」
赤いスワロフスキーが煌めく蓋を閉めて、ルージュをバニティケースに仕舞った。
あたしの目の前にいるのは、記憶にも残らなかった蜷島さんではなくて、最近出逢ったばかりの稲本みなぎだ。
薄く二重の入ったアーモンド型の目許をわざわざ大きくするのももったいなかったから、濃いめのアイカラーを目尻に入れた。オレンジに近いコーラルを浮かせた白い頬は、初々しい果実を想わせられる。少女のような唇の色を消したのに、余計に艶を増した厚い花びらが、尚も物欲しげに綻んでいる。