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貴女に溺れて彷徨う
第5章 見返りという甘い汁
「もうこんな時間。莉世さん、稲本さんと、お昼ご飯でも一緒に行けば?会ったの久し振りでしょ」
「良いよ、そんな気、遣ってくれなくても」
「私達も休憩するから」
「じゃあ、一緒に行こ」
「良いから。元同級生同士、ゆっくりしてきて。こんな遠方まで来させておいて、莉世さんに工場見学させただけ……なんて、招待した私の面目が立たないわ」
響の見えすいたお節介。けれどそれを逃せば、今度こそきっと、みなぎとの関係の修復を試みる機会を失くす。
他の従業員らに断りを入れて、あたし達は工場を出た。
こうして二人きりで歩くのも、久し振りだ。
あたし達はコンビニエンスストアで飲み物とおにぎりを買って、イートインコーナーのテーブルを挟んで席に着いた。
「仲、良いのね。ただのお客様とは思えないくらい」
「一応、友達に発展してるから。それよりみなぎの話が聞きたい。住むとこ見つかった?あゆみちゃんの入学、予定通りにいける?」
穏やかなみなぎの口振りに、却って歯痒さを覚えながら、あたしは彼女に探りを入れた。
みなぎ達は、採用されてまもない社員にしては、破格の待遇を与えられていた。安定した生活の見通しも立って、家族三人が暮らすには不足ないだけのマンションを一部屋買ったらしい。あゆみが通学しやすい場所を選んだという。みなぎが愛娘の中学受験の成功を、やっと喜べるだけの余裕を持てたのも、彼女の顔色から分かった。