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貴女に溺れて彷徨う
第5章 見返りという甘い汁
「莉世には感謝してる。本当に有り難う。莉世が、大瀬様に紹介してくれたんでしょ?」
「偶然、クリーニングの実績ある人を響さんが探してただけだよ」
「偶然でも、莉世の人脈のお陰だわ。そういうことなの。私達、対等な関係ではいられない。一緒にいたら、私がみじめになる。一生引け目を感じる相手か、やりにくい相手なら、私は後者を選ぶだけ」
「あいつこそ完全にみなぎのこと下に見てる。あたしはあんな風に思ったことない。一生お姫様扱いしたいって、誓える」
「永遠の愛ほど、壊れやすい口約束はないわ。一度経験しているから、私はそれも仕方ないと思う」
「…………」
溺れるように愛されたこともなかった反面、あらゆるところで壁にぶつかったこともなく、今日に至った。つまりあたしは、こんな時の免疫性も対処法も持ち合わせていない。
みなぎ一人の気持ちを得られないだけで、まるで自分が世界中から見放されでもしているくらいの疑心に陥りかけている。みなぎはあたしの夢だった。夢は一人で成立するものだと話す睦と頷き合っていたあたしが、みなぎにそれを委ねていた。みなぎを失えば、あたしはきっと自分自身を失くす。
「莉世さん……っ」
先に帰ると連絡を入れて駅へ向かっていたあたしを、人懐こい声が呼んだ。
僅かに息を乱した響に、仕事は良いのかと問う。すると彼女はあっけらかんと、問題ない、と首を横に振る。
一緒に帰ろうと言う彼女に頷いたあとは、電車に揺られている時も、ホームに降りて改札へ向かっている時も、あたしは彼女の甘い言葉に相槌を打った。
響は、ひなた以上にイエスマンだ。顔に施したTenue de bouheurのコスメを除いて、あたしのどこが、彼女の厚意を引き出すのか。