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貴女に溺れて彷徨う
第5章 見返りという甘い汁

* * * * * * *

 見慣れた光景の広がる地元まで、響はあたしに伴ってきた。

 所詮は響も、あたしを容易に選べない。恋愛感情はないにしても、彼女自身で選んだ家族を持ち、二人の子供を養育している。薄ぼけた雲を透けて注いでくる陽の光を受けた、彼女を桎梏しているリングのつやが、今日はやけに目に痛い。

 だのにあたしは、響がいつ帰るかなどには触れないまま、帰り着いたマンションの部屋に鍵を差した。


「それじゃあ、莉世さんを送り届けたことだし、帰るわ」


 ここで帰るつもりだったのか。

 あたしはにわかに気抜けした。


「やっぱ仕事、残ってたの?なのにわざわざあたしの面倒見てくれたんだ」

「仮に残っていたとしても、莉世さんとの時間のためなら、死ぬ気で終わらせてきたわ。でも、約束もしないでいきなり押しかけるなんて失礼だから」

「全然、構わないよ。見られてまずいほど散らかってもいないし」


 …──一人になって、感傷に浸りたい気分じゃない。


 そこまでの本意を明かさなくても響の承諾を得たあたしは、今度こそ彼女を部屋に通した。



「お茶で良い?お酒なら、苺と桃とリンゴがある」

「お茶頼める?」

「了解。ここによく来る女子に、昼間から酒出せって甘える子がいて。一応、訊いてみたんだ」

「甘利さん?」

「あたしが気軽に誘え合える友達なんてひなたくらいだし、分かるか」
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