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貴女に溺れて彷徨う
第5章 見返りという甘い汁


 静まり返った深更、あたし達は就寝も気にしないで交わった。響はあたしの下で何度も果てた。切れぎれの息がかかる至近にまで顔を近づけた響とあたしは磁石よろしく口づけて、唾液を互いに注ぎ込んだ。あたしのものを飲み込む彼女の喉が鳴るのも可愛くて、愛しくて、あたしはまた彼女に呼び水をかける。


 響に、あたしは何を求めているのか。失意の埋め合わせか愛情か、情欲か。本当に響でなくても構わなかったのかも知れない。


 濡れた熱に燃え尽きたようにして、あたし達は脚を絡めて寝台に身を投げ出していた。


「……なんてね、今のは冗談」


 あたしのためなら何でもしたい、あたしが好き。そうした想いを今一度口にした響は、それらを撤回したいようなことを言って、繋いだ指にキスをした。


「今夜だって胸がいっぱいでどうすれば良いか分からなくなってるくらいなのに、本心まで届けたいなんて望んだら、欲張りすぎる。せめて莉世さんの気持ちが落ち着くまで、時間を置くべきなんだわ」


 そうして貴女も離れていくの、と、疑う気にはなれなかった。あたしが今、彼女に揺らいだとする。それは感情的な根拠もなく結婚して、やがて冷えきっていくためだけの長い歳月を余儀なくされる人間と同じ過ちを犯すことになる。

 ひなたが打ちひしがれていた頃、あたしも響のような冗談や真心を、彼女にたくさん伝えていた。彼女の重荷にならないよう、側にいられるだけで満たされたのが懐かしい。







第6章 見返りという甘い汁──完──
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