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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
父が経営を失敗したことは、子供心ながらに理解していた。曲がりなりにも受験勉強を経験した私は、同世代の子供達に比べて、理解力に長けていたのもあったのだと思う。
母は、二ヶ月近く世話になった祖母の家で、しょっちゅう隠れて泣いていた。陰険と言えるほどネガティブな父も、その消極的思考は程度を増した。
他人など信じるものではない、と母が繰り返すようになったのも、あの頃からだ。
母にとっての身内と他人の基準は私の知るところではなかったけれど、一括りに親族なら身内と呼ぶのは、きっと違う。
当時の私は十二歳。愛だの友情だの絆だのにこれから夢を見たい年頃だった私にも、母の口癖は責められなかった。
母を変えたのは彼女の従姉妹、義理の叔父、そして父方の親族だ。彼らは母を見下して、非難して、私のことも随分と言っていたらしい。特に父の実家の方は、息子が十年以上続けた店を畳む原因になったのを、母のせいだと疑っているところもあった。
血の繋がりが、親身になる理由にならない。あれだけ冷たくされたとしたら、私でも心を閉ざす。誹りこそしても相談には乗らなかった彼らより、あの頃、母と仲良くしていた彼女の元同級生の方が、よほど身内らしかった。