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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
六限目の授業からのホームルームを終えて、私はバス二停留分の帰路に着いた。
純和風の一軒家は、一度リフォームされただけの元は空き家だ。二年前、私達はここに居を移してきた。
以前の家を引き払った際、両親は私の家具まで売りに出し、少し前まで私の部屋は、目も当てられないほど殺風景だった。貯金してなるべく好みに近い本棚やチェストを買い揃えて、家庭科の実技を真面目に受けて裁縫の腕を磨いた私が、昔のようなフリルやぬいぐるみに囲まれた空間に帰り着けるようになったのも、最近になってやっとのことだ。
紺色のブレザーに長い丈のボックススカート、チェック柄の大きな胸元リボンがアクセントの生成りのブラウスを壁に吊るして、制服から着替えた私は、喉を潤わせにキッチンに降りた。
「お帰り」
「ただいま。お母さんは?」
「出勤だ。今、繁忙期でな。揃って休んだらまずいからな」
私は淡白に相槌を打って、冷蔵庫を開ける。
リビングに隣接しているキッチンから、テレビに流れる夕方のニュースが見えていた。
「テストは、いつからだ」
「来週。昨日から部活も休みだよ」
「来週ってお前、勉強してないじゃないか」
「してるよ。部活ないとやることないし」
「勉強は暇潰しじゃないぞ。ろくでもない点数ばかりとって、その言い方は生意気だ。来年は高等部だろう。進学出来なかったじゃ済まないぞ」
「じゃあ、お父さんが勉強教えて。私はやることやってるし、それでも苦手なものは苦手だもん」
「勉強なら学校や塾で習うだろ。あとはお前のやる気が問題だ。やる気のあるヤツ、頭の良いヤツは、授業で寝てても結果は出せる。お前は要領も悪いんだろう、人一倍気合いを入れろ」