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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
母の声に耳を塞ぐようにして、私は足早にバス停へ急ぐ。
娘の薬用リップに目角を立てる母も、一時期はコスメへの興味でいっぱいだった。日に日に垢抜けていく母の姿は誇らしかったし、初めは意外な一面に驚いたけれど、ドラマや小説にありがちな、不義の男のためではなく、友人の影響というのも好感が持てた。
母が莉世さんと今でも仲が良かったら、私も違っていただろうか。どうしようもない成績も、少しは改善していたか。母も、もっと丸くなっていたかも知れない。
おそらく優等生だった両親とは似ても似つかない私も、対人関係にだけは恵まれた。外部受験で入学した私はすぐに気の合うグループに入ることが出来たし、彼女達と一緒に入部した美術部顧問の吉沢先生は学校一の人気だけれど、私は彼女とも仲が良い。
結果的に中等部最後の一学期の中間考査も散々だった私は、案の定、父にも母にも絞られた。
私は生まれ育った家を誤ったのだと思う。きっと思春期には過不及なく勉強も出来て、地味に目立たずしおらしく過ごすことに何の苦痛も覚えなかった両親からすれば、私は異質だ。彼らに私は理解出来ないし、私も彼らのレベルについていけない。