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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
毎年六月、三年生は修学旅行へ行くことになる。
行き先は社会見学的要素の方が強いにしても、観光バスから眺める牧歌的な風景は心が休まるし、各自で決めた班に分かれて歩く名所は、資料で見ていたよりずっと楽しめた。
「稲本ちゃんの部屋着、可愛い!ジェラピケ?」
「なんちゃってだよ。隈井さんのは?」
「作ったの。古本屋さんでロリィタ服が作れるみたいな雑紙を見つけて、このくらいなら装飾も少ないし、やれるかなって」
「良いなぁ。私の、お年玉全部使っちゃった。ウチの学校、宿泊行事の夜だけは服装自由だし、最低あと二回は着れるでしょ」
「だからってBABYさんはやばいってwでも可愛い!奮発した甲斐はあると思うよ」
「ほんとっ?やったぁ」
宿に帰れば私達の話題の中心になるのは、もっぱらお洒落や絵のことだ。
スマホや雑誌が持ち込み禁止でも、普段から絵に親しんでいる私達は、紙とペンさえあればいくらでも夢を膨らませられる。中には漫画好きの子達もいて、彼女ら曰く妄想トークを聞いているのも面白い。
にわかにノックの音がして、理香子と美代が廊下側へ駆けていく。
「点呼でーす。みんな揃ってる?」
「吉沢先生っ。全員いまーす」
「オーケー偉い!楽しそうだね、何してたの?」
「落書き。どうせ陰キャとか言うんでしょ」
「言わないよー。先生もみんなくらいの頃は、絵を描いたり漫画読んだり大好きだったもん。漫画ないの?隠していればバレないのに」
「先生がそれ言っちゃいますか!」