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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
「先生。誰かを好きになったり、告白されても付き合ったりしないで下さい」
「どうして」
「私が高校生になって、卒業するまで時間を下さい」
良いよ、と、夢のような答えが返ってくる。
「私を落胆させないでね。こういう約束は、重大責任になるんだから」
今日にでも交際出来る学生同士のカップルでも、一週間後には気持ちが変わっていることもある。変わらないものなどないというのは両親を見ていれば分かるのに、私達は無関係だという根拠のない自信が胸を満たす。
実際に他人に好意を抱くようになって、私は母に関することで、もう一つ分かったことがある。
母が一番明るかった頃、友人が彼女に影響を与えていたのではなく、恋が差し響いていたのだろう。彼女と莉世さんの間には、甘く苦しい何かがあった。
昔、初めて私がAngelic Prettyの洋服に試着室で袖を通した時、彼女達は私を待つ店内で、睦まやかに顔を寄せていた。莉世さんが私に合格祝いをしてくれた日、夕飯の席を外して書店へ行った私が戻ると、彼女が切実な顔で母に何か訴えていた。
莉世さんと一緒だった頃の母は、父の横柄な物言いに俯くだけの、平凡な母親ではなかったのに。