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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴







 目覚めた時、眠って一時間しか経っていなかった。

 カーテンの隙間を差し込む薄ら明かりに目を凝らして、あたしは部屋の外に出た。のどかな小鳥の鳴き声が、明瞭になる。


「莉世も目、覚めたんだ。さすがソウルメイト」


 おどけた調子の言葉つきも、寝起き特有の掠れが、玲瓏な響きを添えている。少年めいた女の声。

 カーディガンを羽織った睦が、柵に凭れるあたしに並んだ。前方に、日の出の光が差している。


「あんなにはしゃいで、泥みたいに爆睡するかと思ってたけど」

「だね。……私はともかく、莉世は空元気だったからじゃない?はしゃいでた振り、頑張ってただけだろう」

「そんな普段と違った?」

「お風呂出てきてからね。莉世が恋煩いしてる時の顔、分かりやすいから。響さんとひなたちゃんが仲良くて、不安にでもなった?」


 思いがけなかった睦の指摘に、あたしは拍子抜けした。触れれば罅割れるだろう程度に張った結氷下の胸底に、安堵が広がる。

 ふと昔を思い出しただけだ。響が、ときめきの効用は美容などとおちゃらけるからだ。


「不安になるくらいなら、響を選ばなかったと思う」

「──……」

「理屈なく素敵な人だよ。でも、もし響がみなぎみたいにつれない人なら、好きになっても友達にとどめていたと思う。幸せになれるって、確信したから、あたしは彼女に告白した。甲斐あって、今は幸せ」

「ほんと?」

「求めていたのは、辛くて苦しい恋じゃないから。好きな人とは、楽しかったり嬉しかったり、せっかくならそういう気持ちを共有したい」
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