この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
目覚めた時、眠って一時間しか経っていなかった。
カーテンの隙間を差し込む薄ら明かりに目を凝らして、あたしは部屋の外に出た。のどかな小鳥の鳴き声が、明瞭になる。
「莉世も目、覚めたんだ。さすがソウルメイト」
おどけた調子の言葉つきも、寝起き特有の掠れが、玲瓏な響きを添えている。少年めいた女の声。
カーディガンを羽織った睦が、柵に凭れるあたしに並んだ。前方に、日の出の光が差している。
「あんなにはしゃいで、泥みたいに爆睡するかと思ってたけど」
「だね。……私はともかく、莉世は空元気だったからじゃない?はしゃいでた振り、頑張ってただけだろう」
「そんな普段と違った?」
「お風呂出てきてからね。莉世が恋煩いしてる時の顔、分かりやすいから。響さんとひなたちゃんが仲良くて、不安にでもなった?」
思いがけなかった睦の指摘に、あたしは拍子抜けした。触れれば罅割れるだろう程度に張った結氷下の胸底に、安堵が広がる。
ふと昔を思い出しただけだ。響が、ときめきの効用は美容などとおちゃらけるからだ。
「不安になるくらいなら、響を選ばなかったと思う」
「──……」
「理屈なく素敵な人だよ。でも、もし響がみなぎみたいにつれない人なら、好きになっても友達にとどめていたと思う。幸せになれるって、確信したから、あたしは彼女に告白した。甲斐あって、今は幸せ」
「ほんと?」
「求めていたのは、辛くて苦しい恋じゃないから。好きな人とは、楽しかったり嬉しかったり、せっかくならそういう気持ちを共有したい」