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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
沈黙があたし達の間を埋める。
視界の端に、彼女こそ思うところでもあるのではないかといったような、睦の面持ちが映る。既視感が迫る。
響はあたしを愛している。それでいてあたしの友人達にも、相応の友情を持っている。例えばあたしがひなたに触れても、響が彼女らと一線を超えた親交を持っても、あたし達の間に疑心は生じない。
こうも穏やかな線の上にいて、ふとした時、あたしは不安に襲われる。
あたしは奇跡という言葉を避けるようになった。万に一の可能性より、絶対的なものの方が尊い。だからこそ響の当たり前になりたかったのに、ことあるごとに、彼女は現実を夢呼ばわりする。
ひなたの羞恥プレイを賞翫した翌々日、昼近くに響が店を訪ねてきた。せりなの後任の田辺さんが気を利かせて、早めの昼休みを回してくれた。
あたしは響と、百貨店の近くのカフェでランチを頼んだ。
いわゆる隠れ家的だと定評のある店でも、この時間は女性客で少し賑わう。見るからに休憩中の彼女らは、華やかで自己愛が強そうで、おそらくどこかのアパレル店員達だ。
そうした中、寛ぎきった体勢で、気の抜けた視線を窓の外に送っている響ほど、私に眩しがらせる女はいない。一昨日とは違う色のネイルの並んだ彼女の指が、ピンクレモネードに浮かんだ氷をストローで手持ち無沙汰のようにかき混ぜていた。