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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
「どうしたの。睦も元気なかったし、響さんまで感傷的になってる気がする」
「来年、下の子が高校を出るの。今一年生なの、莉世さん知ってたわよね?」
「うん」
「やっと自分の時間が増やせること、怖いんだ。持ち物だけは無駄にある、堅苦しい家に生まれて、私に自由はなかったの。限られた中での楽しみで、満足していたの。莉世さんの接客でコスメを買って、友達みたいな家族で団欒して。お洒落して、映画を観て。きっと人より恵まれているのに、もっと望んだら、欲が深いんじゃないかって」
「響さんの望みって、あたしと一緒にいること?」
おどけた調子を装って、あたしはランチプレートに手を合わせる。
サラダを食べてアイスティーを啜るあたしの正面に座る響も、優雅な手つきでパスタをフォークに絡め始める。
「莉世さんは、自由なところが素敵なの」
「自由じゃないよー。社畜だよー」
「そういうことじゃなくて。確かに私は、莉世さんのことで欲張りになっている。今でも貴女とこうしているのが、奇跡みたいに思うんだ」
「…………」
「私がプロポーズしたくなる前に、莉世さん、もし私が負担なら、もっと執着する前に、はっきり重いと言ってくれた方が良い」
心外だった。
あたしは響に救われた。みなぎにことごとく拒絶されて、どう伝えても伝わらなかったあの頃、側にいてくれたのが響だ。
彼女が自覚している通り、確かにあたしは彼女にほど愛された試しがない。宙に浮いているようだった。彼女に繋ぎとめられるまで、誰の目から見ても自由だったのかも知れない。それがみなぎの逆鱗に触れたのも、今となっては思い出だ。