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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
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小学六年生の誕生日月、最初で最後に足を踏み入れたAngelic Prettyの直営店近くに、大瀬さんの店がある。
正規店はまだ敷居が高くても、憧れだったロリィタは、私にとって前より親しめるファッションになった。
土曜日の午後は、同世代くらいの少女達もよく見かける。ここら周辺は似た系統の店が集結していて、もちろん社会人と見られる女性達もいて、彼女らは私には眩しいようなショッパーを肩にかけていたりする。
私はさくらんぼとウサギのプリントが裾一周を飾るAngeic Prettyのワンピースをパニエで膨らませたコーディネートで、リボンや造花が持ち手のアクセントになった籠バックをぶら下げて、大瀬さんの店に入った。
古着と言っても、前の持ち主に大切にされていただろう各アイテムは、十分よそゆきとして袖を通せるものばかりだ。ところ狭しとラックに並んだ洋服は、見ているだけで胸が弾む。デッドスペースはない。僅かな空間にも靴や服飾雑貨が陳列されているこの店は、新品同様の掘り出し物もよくあって、ここまでの状態にするための作業にあの両親が携わっているのだと思うと、私は不思議な気分になる。
BABY,THE STARS SHNE BRIGHTにAmavel、それに小学校六年生の夏、密かに興味を惹かれていたLIZ LISAに目移りしながら、私はAngeic Prettyが集めてあるワゴンの側に足を留めた。
私生活では、なるべく肌に合ったものを着ていたい。たかが服装にそこまでこだわる私に眉根を寄せる人間も、世の中にはいる。けれど過剰装飾の洋服は、私にとって肌の一部だ。着用を許さないということ、それは皮膚を剥かれるのも同然だ。いっそドレスを着たまま産み落とされていたら良かったのにと、時たま私は口惜しくなる。
普段着にさらっと着回せるトップスを吟味していると、上品なオードトワレの香りが鼻を掠めた。
どこか懐かしい香りの方面に顔を向けると、母より歳上と聞いているのに、母よりずっと溌剌としてみずみずしい、肩より少し短めの茶髪をゆるく巻いた女性が、整った顔を綻ばせていた。