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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴


「考えすぎじゃないでしょうか。稲本さんは、真面目すぎるところがあるから……」

「大瀬さんから見ても、そうですか。親と違って、私は真面目でもないし、成績が伸びないのもあって、好きなものも認めてもらえない。周りには、当たり前みたいに、好きなこと自由にしている子達がいるのに。何で私だけって、モヤモヤします」


 大瀬さんにこんな話を打ち明けても、仕方ない。

 それでも気持ちはいくらか晴れた。

 私は、話し終えるまで嫌な顔一つしないでそこにいてくれた彼女に礼を言い、今度こそ一礼して踵を返した。

 後方から大瀬さんの声が聞こえた。


「待って下さい、あゆみさん」


 振り返り、私は大瀬さんらしからぬ顔の彼女を見た。艶やかな肌に馴染む洗練されたカラーメイクに映える目は、何かに憂いで、少なからず私に同情を向けている。


「今は不自由でも、一生そのままとは限らないと思います」

「え……」

「どんな人でも、自由を当たり前に持つのは難しいと思います。手に入れる権利はありますのに、ね。チャンスも。今は手が届かなくても、いつか笑い話として振り返れるような日が来ると、私はあゆみさんにも信じて欲しいです」

「…………」


 楽観的な慰めだけには聞こえなかった。自由が当たり前ではないなどと、大瀬さんのような人が発想したのも意外だったし、それは彼女自身に言い聞かせる口振りにも聞こえた。

 そう言えば、大瀬さんは私の母の友人とも、交流を持っていたのだったか。…………
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