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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
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短かった梅雨が明けて、あちこちで祭りや花火大会が告知される季節になった。
わけもなく開放的な空気が街を溢れるのとはよそに、あたし自身は今年も特別なことはない。
七月最初の休日の午後、あたしは響と待ち合わせた。
彼女の方から声をかけてくれるのは、珍しくない。あたし達のような関係で、却ってデートも提案してこない方が不安になるのに、わざわざ話があると言い添えてきた響の様子を、その時から不審に思うべきだったのかも知れない。
改札にいた響は、変わらず非の打ちどころなく美しかった。さり気ない程度に可愛らしいディテールの入った洋服や化粧は、彼女の潤いに満ちた髪や肌を華やがせて、凛然としていながら柔和な、整った顔を引き立てている。一見すれば格好良いとも言える彼女の容姿から、いじらしくて可愛い素顔が、誰に想像出来るだろう。屡々、響を盗み見たがっている感じの通行人を見かけては、あたしは彼らないしは彼女らに僅かな自慢を覚えて、薄手のブラウスに水彩タッチの向日葵模様のロングスカートを合わせた彼女に近寄った。