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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
響もあたしも、初デートか女子会にでも出かけるような格好だ。
交際して二年と少し、それも週に何度も会っている恋人同士が待ち合わせるには、あまりにめかし込んでいる。
仕方ない。二人とも自身を飾ることに固執していて、会う相手に関わらず、これが日常的だからだ。仮にあたしが響の好みの真逆だったとしてもあたしは彼女に合わせないし、反対に、響の好みがあたしに合わなかったとしても、彼女も洋服や化粧だけは、あたしのために変えないだろう。
人間の価値を見た目で測れると考える自体が、馬鹿げている。
以前あたしの元同級生が、最低限の薬局コスメからデパコスのフルメイクに変えて、ネイルカラーを施しただけで配偶者と揉めたらしいけれど、その男は自身の浅はかさを披露しただけだと思う。
響の話は、あたしの予想を裏切った。
予想を外れるだけならあたしからその話題を出したのだろうけれど、彼女の話は飛躍しすぎて、あたしの頭は追いつかなかった。
「私は、誰のものにもならなかった莉世さんが好きだった」
百貨店の屋上、色鮮やかな夏の薔薇が甘ったるい香りを充満させている屋上で、あたし達はベンチに腰を下ろしていた。花壇のハーブは青々と茂り、爽やかな存在感を放つ。
あたしはTenude de bonheirの新作コスメで夏色のラメを加えた響の顔を間近に眺めて、本来なら最高の気分のはずなのに、彼女の意図が理解出来ない。