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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
あゆみの顔は、話すほど明るんでいく。
よほど鬱憤を溜め込んでいたらしい彼女とはよそに、あたしの胸の奥底は、温かいミルクがぽかぽかと広がっていく心地を得ている。
あゆみの話の節々に、忘れ難い、彼女の母親の影を見る。みなぎの気配を探しながら、三年前、どれだけ日々が満たされていたかを思い知る。
みなぎにとって、あたしは何でも構わなかった。ただあたしの知らない歳月に、彼女をいさせたくなかった。
「母親らしくしてたんだ、……みなぎ。真面目なとこ、──…」
いつまでも可愛い、と喉まで出かかった言葉を引っ込めた。
「元気で、安心」
「楽しそうじゃないけどね」
「仕事、大変なの?」
「それもあるかも知れないけど、莉世さんが会ってあげなくなってから、友達もいない石頭になっちゃったよ。融通利かないの、悪化してる」
「生まれついた性格は、簡単に変えられないからね。本人は、あれで結構、楽しんでたんじゃないかと思う」
「私にはそうは見えないよ。莉世さんと会ってた頃は、マシになってたから……。あの頃のお母さんは、本当に活き活きしてたよ。お風呂上がりに化粧水やパックまでして、却って心配だったくらい。私の話も、もっと笑って聞いてくれてた」
あゆみとあたしは、すっかり話し込んでいた。窓の外は、ブルーグレーの夜の兆しが覆っている。
周囲の女子生徒達がレジへ向かう頃になり、あたしもあゆみの門限を確認する。響に勉強を教わる口実で出てきた彼女は、あと一時間は大丈夫だと答えた。
「じゃあ物理もやっとく?最終日なら後回しでもいけるかと思ったけど」
「うん。まずどこが分からないか今、分からないから、ざっくり見ておきたい。その前に、莉世さん。個人的な相談……と言うか、客観的な意見を聞きたいことがあって。良いかな?」
あゆみの視点でみなぎに関する話なら、聞き尽くしたと言えるほどには聞いた。けれどそれとは違う話の予感がしたのは、今からの話こそ本命だったのではと見られるくらい、あゆみが神妙な面持ちになったからだ。