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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
* * * * * * *
試験に備えて美術部も活動を休止して、三日が過ぎた。
塾までの時間が空いた私は、遠回りして両親の職場に立ち寄った。
私の送ったLINEに母から返信が届いたのは、ついさっきだ。時間を合わせて、小休憩をとってもらえることになった。
バスに揺られて十五分、広々した町に出ると、見当たるのはコンビニや自販機くらいだ。間隔を開けて建つ各施設も、工場や何かの会社と見える。
久々の道のりを歩いていくと、目的地の門先に、見知った女性の姿があった。
「あっ、お疲れ様です」
「こんにちは。珍しいですね、あゆみさんがこちらにいらっしゃるなんて」
「塾まで暇だから、お母さんにアイスでも買ってもらおうかと思って」
「良かった。あんなお話をしていたから、もっとピリピリしてるのかと。中、入ります?」
「いいえ。お父さんに会ったら、勉強しないで何してるのかとか、きっと五月蝿いですから」
母が私に厳しいのは、生来の生真面目を娘にも押しつけたがっているのもあるけれど、何より父の機嫌を窺うからだ。
それが、私が母を尊敬出来なくなった理由の一つだ。周りの同世代の子達を見ると、私がおかしいのかと思う。どうにかして敬える部分を引きずり出そうと頭を捻るも、世間体だの周りの顔色だのばかり気にする母に、私がリスペクトしたいところはない。
「お母様呼んできますね。そうだ、お勉強はどうですか」
「お陰様で。莉世さんの教え方、やっぱり私に合っています。それに、相談にまで乗ってもらってしまいました」
「莉世さんも、だいたい私と似たようなこと仰ったでしょう」
「親のことじゃなくて──…」
私は吉沢先生との関係を、莉世さんに打ち明けた。恋の相談かと冗談めかした莉世さんに、私はそうだと頷いた。