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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
実のところ、私は悩んでもいなかった。莉世さんの本心が知りたかっただけだ。
莉世さんと母の関係が、私の想像通りなら、世間的には関心されない。私も相手がどこの誰かも知らなくて、父がもっと母に尽くしていたら、傷ついていたはずだ。
だから私は、まず私自身のセンシティブな事情を明かせば、莉世さんも打ち明けてくれることを期待した。私の場合、学校に見つかれば面倒なことにもなるかも知れない。
「待つ恋をしてるだけなら、つらいだけだって。聞いても参考になるようなことは言えないって、言われちゃいました。つらくても寂しくても耐えられるか、耐えられるなら否定しないって」
「…………」
私は、莉世さんに何を求めているのか。母を以前の彼女に戻して、救い出して欲しいのか。母が自由に焦がれることで、私も、今の息も詰まるような日常を抜けられるとでも思うのか。
「同じ女として、あゆみさんに魔法の言葉をかけておこうかな」
「ええ、何ですか?」
「つらくて寂しい恋愛も、一つの幸せのかたちだと思いませんか?」
かくいう大瀬さんの薬指には、いつも綺麗なプラチナのリングが輝いている。
「好意が一方通行でも、遠くから見ているだけでも。私は好きな人が幸せならそれ以上は望まないし、そのために自分は何が出来るか、それは側にいてお互いがお互いのものになる以外にもあるんです。とは言え、人間の気持ちですから……本人にとっての幸せなんて、本人にしか分からないんですけどね」