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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
「お疲れ様です。大瀬さん」
「今日はあゆみちゃん、いらっしゃらないんでしょうか。もうすぐ試験みたいだし、会えたら甘い差し入れくらい渡したいんですけれど」
「お気遣いなさらないで下さい。いつも有り難うございます。あの……あゆみ、よくお店に行ってるんでしょう?ご迷惑かけていませんか?この間は、勉強まで見ていただいて……」
「いいえ、楽しいですから。試験が終わったらまた来て欲しいと、お伝え下さい。それに稲本さん。あゆみさん、お勉強すごくやる気ですよ。差し出がましいかも知れませんけど、彼女の努力は褒めて、女の子なんですから、たまには友達みたいな目線で話してあげて下さい。同じ母親として、私からの提案です。楽しいですよ、娘の趣味に付き合ったりとか」
「そっか……大瀬さん、お子さんいらっしゃいましたね。あまり所帯染みていらっしゃらないから──…あっ、失礼な意味ではなくて」
「有り難うございます。失礼なら、私の方こそ。あゆみちゃん、稲本さんのことも心配されていましたから。お友達とよく会っていた頃の方が幸せそうだった……と」
「──……」
何故、私が友人と呼んでいた女の話題を出すだけで、この人が切なそうな顔になるのか。
大瀬さんが一瞬見せた言いようのない表情を、私は見逃せなかった。
そんなこと私が一番自覚している。だから戻りたくないのだ。浮かれたお洒落も、まして不義など、あゆみが自立しても二度としない。