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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴

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 みなぎ達が、遠い昔の両親の姿に重なった。

 無責任で身勝手なくせに、都合の良い時だけ男としての時代錯誤な自覚を持つ。あたしの父は、まるで扱いこなせない玩具を運良く与えられた幼子だった。世帯主という肩書きが、彼をことごとく思い上がらせて、配偶者を侍女か所有物とでも勘違いさせていたのだと思う。

 稲本大雅がみなぎを顎で使っているのを目の当たりにして、特に驚きはなかった。
 背中を丸めていつもぼそぼそ話す彼女が、反抗的な態度をとってこなかったのは明白で、どれだけ理にかなった鬱積も、口に出すタイプではないからだ。つまり彼女はあの手の男にしてみれば、扱いやすく都合が良い。

 決まり悪そうに顔を歪めた男が何か言いかけたのも聞かないで、あたしはみなぎの手を引いて、現場を去った。

 彼女が反発しないなら、その役目は友人が担えば良い。いやならあたしを振り払えば良い。二年と少し前のあの日と同じで、言葉で拒絶すれば良い。


 無言であたしに歩行を合わせていたみなぎは、更衣室に寄りたい、と呟いた。

 狭く薄暗い通路を通って、あたしは彼女の着替えに付き添う。外で待つ間、何もない古びた壁をぼんやり眺めた。



 みなぎを連れ出して、あたしは何がしたかったのか。
 彼女の配偶者の振る舞いに、衝動的に動いただけだ。後先考えてもいない。

 今の彼女は、あたしの何か。それもはっきりしないけれど、あの男の住む家に彼女を帰らせるべきではないと判断したのだけは、はっきりしている。

 彼女の心を満たすことも、あたしが彼女に満たされることも、きっと出来ないのに。
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