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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
進学塾まで迎えに行ったあたし達に、あゆみは天変地異でも起きたみたいな顔をした。
それというのも、今日まであたしはあゆみにどれだけみなぎの話を聞いても、興味も向けない姿勢を貫いていた。気持ちに扞禦をかけながら、その実、揺さぶられていた。あゆみと話せば話すほど、もう戻れないと諦めて、目を逸らせていたかつての日々が、鮮やかに蘇ってくるからだ。
「やっと会ってくれたんだ。お母さん、野暮ったくなったでしょ。苦労かけられてる証拠だよ」
「工場まで会いに行った。顔見て帰る予定だったのに、さらって来ちゃった。試験前にごめんね」
「ううん。ノートも制服もあるし、他はお父さんが出てる時間、こっそり家に戻るから」
みなぎが切符を買う間、あゆみとあたしはそうした言葉を囁き合った。
彼女らを自宅に迎えるのは容易かった。
スーパーも閉店間際だったため、母に夕飯が余っていないかLINEしてみると、ちょうど天ぷらを揚げていたらしい。あたし達が帰宅して、ややあって訪ねて来た母の手には、あり合わせの野菜なども追加で揚げてくれたものが多すぎるほどあった。
「有り難う。野菜、今度返すね」
大皿を受け取るあたしの肩越しに、母がみなぎに声をかけた。
「初めまして。稲本さんですね?娘がお世話になっています。ごゆっくりしていって下さいね」
「あっ、お母様……急に申し訳ありません。お邪魔しております」
「いえいえ。私は隣に住んでいるので、お友達同士、遠慮なく過ごして下さい」
「有り難うございます」
母が部屋に戻っても、現実は、再会に舞い上がっている場合でもない。あゆみが試験勉強とは別に課題を終わらせたいと言ったのもあって、手早く夕食を済ませると、あたしはみなぎに片づけるのを手伝ってもらいながら、彼女を先に入浴させた。