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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
「仕事上がってきたばかりのみなぎにこんなことさせるなんて、プライド、ズタズタなんだけど」
「どんな信念よ。ご馳走になったんだし、これくらいさせて。アポもなしで、私だって常識破らされたんだから」
「常識なんか、あてにならないよ。明日から全裸で出社が常識って決まったら、どうするの」
食器洗いの共同作業に胸が逸る。
視界の片隅にみなぎがいる。時々、手や肩が触れ合う。自信なさげで俯きがちな彼女の声や気配を、すぐ隣に感じる。
何でもないことなのに、この日常のひとこまにいるのが、地味で真面目腐った元同級生というだけで、あたしは特別感に浮かれる。
「みなぎの家によく押しかけてた頃が、懐かしい。そう言えば、あの時だって結構、突然押しかけてたよ、あたし」
「莉世は陽キャだもん。私は違うから、抵抗ある」
「あたしも違うってば」
「そうには見えないのよね……。それにしても、どうしてくれるの。大雅にあんなこと言って出てきて、明日になったら、あゆみも私も失踪届が出ているかも」
「じゃあ、被害届でも出しておこっか。ちゃんと雇われている家政婦さんでも、あそこまでぞんざいには扱われないよ」
「私は、あの人の家内だし」
「だったら尚更。対等じゃなくなってる時点で、配偶者なんて口だけ」
「そんな言い方、しなくたって」
片づけのあと、あたしはみなぎの着替えを選んだ。
ひなたが置きっぱなしにしている、扇情的、且つ少女趣味な要素も盛り盛りな部屋着は避けて、あたしが常用している上下セットを提案する。それでもリボンとさくらんぼ柄のパフスリーブに顔をしかめる彼女に、却下なら下着で眠ってくれても構わないと付け足す。