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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
* * * * * * *
ひなたと睦の関係は、三年前から──…実際にはもっと前から、まるで安定した宙に浮いている。
少し前、早朝、あたしは睦と彼女の部屋の外で話した。響とひなたは、まだぐっすり眠っていた。
響をどれだけ愛しているか。睦の邪推に反駁しながら、前の晩にひなたを可愛がり倒したあたしには、彼女の名残りが染みついていた。
辛く苦しい恋はいらない。好きな人とは、楽しかったり嬉しかったりする感情を、共有したい。
そうしたことを口にしたあたしの隣で、睦の顔こそ思いつめていた。響にひなたが懐いて困っていたのは、今にして思えば彼女の方だったのだろう。
「そういう相談してくる時点で、睦は決めてるんでしょ。買った後悔より買わない後悔、って言うくらいだし。告白も同じかも知れない」
「こんな話、ごめん。自分の気持ちははっきりしてても、相手がひなたちゃんってなると、迷うんだ。ひなたちゃんのことよく知ってるのは、身近じゃ莉世だけだから」
「噛みつかれる覚悟があるなら、告白どうぞ」
「噛みつかれたの?」
「昔。可愛いし狙っちゃおうかなって言ったら、軽蔑した目で睨まれた。転職の事情を知る前だったし、あたしも軽いノリだったから、つまり逆鱗に触れたんだけど」
「今の莉世なら、余裕でオーケーもらえそう」
「それはないよ」
「それはあると思うから、莉世に相談してるのもある」
みなぎに失恋したあたしは、半日と経たない内に響と寝て、一ヶ月もしない内に告白した。いくらひなたが繊細でも、五年も経てば、傷口は疎か、瘡蓋も見当たらなくなっているかも知れない。
ひなたは、本当は待っているんじゃないか。それこそ睦のような人を。
その翌週、響が別れをほのめかしてこようとは、あたしは考えもしていなかった。