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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
「いらっしゃいま──…、莉世?!」
営業開始に合わせて、あたしは睦の店を訪ねた。
伴ったのは、華やかな、初々しいところが余計に可愛い、ちなみに店主とは初めて顔を合わせる女だ。名前を聞けばピンとくるはずの彼女を見るなり、睦は目を丸くした。
「は、初めまして。稲本みなぎと申します……」
「あっ……」
ボブの茶髪に花のコサージュを挿して、ラッセルレースのフリル袖が目を惹く花柄のワンピースを合わせた、さしずめ妖精のみなぎのために、あたしはカウンターの椅子を引く。おろおろと腰を下ろす彼女の隣に座って、お品書きを拾い上げた。
「初めまして。稲本さんだったんだ、莉世に噂は聞いています」
「……私のような、似合わないくせにこんな格好した者が……あの、すみません……」
「ダメだって、みなぎ。もっと自信持って。あたしのセンスに狂いはないから」
「あっ、すみません……」
みなぎが縮こまるのは見慣れている。それよりあたしは彼女の好みを参考にして適当な飲み物を頼みながら、俯く彼女に腕を絡めた。こんなところで、と彼女が身を引きかけるより先に、あたしは胸を押しつける。
「大丈夫。みなぎのことは、悪いように噂してないよ。大の仲良しに、可愛い友達を紹介したかっただけ。タイプは真逆だけどひなただと思って、楽にしてて」
「え、ええ……」