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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴

* * * * * * *

 あたしは響に別れを告げた。

 彼女の理想があたしでなかったのはどうしようも出来ないし、恋人が友達になったところで、好きな部分はその通りに伝えるし、きっと触れたくなれば触れる。


 八月初め、Tenue de bonheurでは、秋のコスメの第二弾が発表された。

 今秋のコンセプトは、気まぐれな猫。
 コケティッシュで自由気ままな、日ごとに表情を変える女のイメージだという。企画に少し関わったせりなによると、肌馴染みの良いピンクやブラウンより、冬でもカラフルな化粧が好まれがちな昨今に合わせて、色展開にも気合いが入っているらしい。

 例のごとく、響は予約開始後、すぐ店に来た。


「ピンクブラウンのマスカラ、ついに出るのね。ここでは大きな声で言えないけれど、こういう色って、ドラッグストアでしか見つからなかったから……」

「あたしも睫毛いじりたい時は、その辺の使ってる。ネイビーも可愛くない?グレーに近くて、塗ってますって感じもなくて」

「使いやすそう。莉世さんのお勧めは?」

「プラムレッドかな。好みで言うなら、暗い色はデカ目効果があって好き」

「じゃあ、絶対に抑えておかないとね。貴女の好みなら」


 別れ話を受け入れたことを悔いている。あたしがそう言い出したとして、響は取り合うつもりもないくせに。

 悪態を吐くのは胸の中だけにとどめておいて、あたしは彼女の予約票を準備する。
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