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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
「みなぎってば、急にそんなこと訊いてくるなんて。あたしが可愛いから気になるの?」
「莉世っ、暑い……自惚れないでっ」
「暑くないよ。二時間前からクーラーつけっぱだもん。ねぇ?今のあたし達、完全に家族みたいじゃない」
Ank Rougeの赤紫のカットソーに引き立つうなじに、吸いつきたくなる。
先日、一緒に出かけた先でみなぎが買い揃えた洋服は、彼女の好みを取り入れながらも、店を提案したのはほとんどあたしだ。最近では特に卑下もしないで袖を通すようになったところからして、少しは装飾性の高い格好に慣れてきたのかも知れない。
あたしが軽い調子でみなぎに戯れられるようになったのは、あゆみの目に触れたところで、母親が父親以外の人と──…といった類の心象を与えている意識が、なくなったからだ。友人同士でも、戯れる時は戯れる。
それなのに、夕餉のあとあゆみが浴室にこもって扉を閉めると、みなぎは例の話を再開した。
「みなぎに隠しても、意味ないしね。そうだよ。響さんとは、先月まで付き合ってた」
紅茶の茶葉がポットの中で舞い上がるのを見守るあたしの後方で、みなぎは卓袱台に頬杖をついていた。
「何で別れたの」
「一人でいたあたしが好きだったんだって。誰かに甘えたりする姿、響さんとしては、なしだったんじゃないかな」
「大瀬さんが、そんなこまかいことを気にされるなんて……」
「ま、別れ話の口実だろうとは思ってる。愛が足りなかったかな。やっぱりあたし、誤解を招きやすいのかも」
…──みなぎにも、伝わった本心なんてなかったみたいなものだし。
今となってはとりとめない、ただ、みなぎの耳には触れないに越したことはないだろう思い出話は胸に仕舞う。