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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
茶漉しを取り出して、濃いめのアールグレイティーに、一気に氷を注ぎ入れた。ロックアイスに罅が入って、澄んだアイスティーが完成した。
「友達として、こういう時って、相手の人に酷いわね……なんて言うところかしら?でも、大瀬さんは私の雇い主なのよね……」
「みなぎの口から、酷いっていうのは聞いてみたいけどね。出来れば、ドラマみたいに、私じゃ代わりになれないか?みたいなことの方が言われてみたい」
「じゃ、他を当たって。知っての通り根暗だから、私、恋バナとか下手なの」
あゆみが浴室を出てくると、みなぎは話題を、ニュースサイトで拾ってきたばかりの事柄に切り替えた。
みなぎの気持ちを、あたしは少しでも動かしかけているのだろうか。期待して、また突き落とされるのは、二度と経験したくない。
貴女の代わりになれないか。
振り返れば、響がそれに近い立ち位置にいた。彼女がみなぎの代わりになったことはなかったにしても、彼女がいなければ、きっと今のあたしはいなかった。みなぎともう一度関われたのも、彼女のお陰だ。
みなぎは、友達でも恋人でもなかった頃の、あたし達を覚えているだろうか。あたしと同じくらい深く、彼女の記憶にも、あの頃のことは染みついているだろうか。
甘ったるくてしょっぱくて、キラキラした浮雲のようだった。掴みどころはなかったけれど、今よりあたしはみぎに溺れて、彼女に振り回されていた。