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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
「ご無沙汰です。畏れ入りますが、周りのお客様が驚かれるので、声を抑えてもらえませんか」
「高垣さんでしたかな……大瀬さんと、協力でもされていましたか。元はと言えば、貴女が家内を連れて逃げたんでしたね。困ってるんですよ。家内は今月、家に金も入れていませんし、義務教育中の娘を何日も外泊させていまして」
「何故そうなったか、稲本さん自身で考えて下さい。……と言っても、あの日、あたしにあんなところを見られておいて、言い訳も出来ないと思います」
「主婦なら、家事をするのは当たり前です!俺が食わせてやってきたんだ……それなのに、こんなバカみたいな化粧をして、十代の子供みたいな格好をして、独身なら白い目で見られるだけで済むにしても、娘もいるのに、恥知らずなっ……くそっ、昔はまともだったのに……こいつに、こんなチャラチャラした友達がいつ……」
やはりこれが、この男の本性か──。
もし稲本がみなぎを迎えに来た時、心を入れ替えると言い出したなら、と少しは懸念していたあたしは安堵していた。
「帰るぞ、あゆみ」
「いやっ」
「お母さんはあとで連れ戻す。お前だけでも帰るんだ、人生滅茶苦茶になりたいのか!」
「お父さんと今のままでいる方が、あゆみちゃんには負担です!」
あたしは稲本をあゆみから引き離し、彼らの間に割って入った。
「何?」
「みなぎとあゆみちゃんを連れ帰りたいなら、ちゃんと話し合って下さい。貴方の考えは時代錯誤だし、さっきから聞いてたら、ただの暴言です」
「お前は家内の何だ。その……友達でも、友達は選んだ方が良いぞ?みなぎ」
「じゃあ、友達から言います。みなぎは結婚相手を選ぶべきでした」
「ふざけるな!俺がどんなに頑張って……、こいつらを養って、今までやってきたと思ってる!」
「お父さんっ!」