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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴


 こんな、とろんとしたみなぎの目つきを見たのも久しい。いや、こんな時の彼女の顔は、最近も見たんじゃないか。気のせいだということにしていた。どれだけ彼女を愛していても、彼女から同じ想いは得られないと諦めていた。

 幻のような質感が、あたしの指の腹を撫でる。実際は、あたしの指が彼女の唇を撫でたのだ。
 ルージュのしとりを帯びた花びらに、ずっと触れたくて仕方なかった。


「みなぎ、……」

「──……」


 そんな顔をしないで、今まで抑えてきたのが無駄になる。

 声にならない叫びを上げるあたしの胸は、とっくに溢れきっていた。


 指ではなく、今度は唇を彼女に重ねる。


「──……」


 時が止まったような、永遠に感じる口づけは、実際はあまりに一瞬だった。ただ触れるだけのキスは、未だかつてなかったほどに甘かった。


「今のが、本心」

「…………」

「そうやって、みなぎが自分をダメみたいに言うのも聞きたくない。誰かに支配されてるのも、耐えられない。みなぎはあたしのお姫様も同然だから」

「そんな、……」

「みなぎが優しくて弱いとこ、好きだよ。それがみなぎだから。でも、それにつけ込んじゃいけないと思う。そういうことする人間の近くになんか、いて欲しくない」
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