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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴

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 すっかり有頂天になったものだから、出勤して、早番の田辺さんから引き継ぎを受けて、客足が途絶えては同じシフトのひなたと雑談していたあたしは、夕方になるまで彼女の胸に悩みの影が差していたことになど気づかなかった。
 ひなたにも変わった様子がなかった分、余計にだ。あたしの惚気に相槌を打ち、さすがだの、あたしが失恋するはずなかったのだの、自分のことのように喜んでもくれていた。


 何かしら胸につかえるものがありながら、一日の仕事をこなしたひなたが施設事務所へ日報を届けて戻ってくると、エレベーターで他の店の従業員達に揉まれながら、あたし達も更衣室へ向かった。


「今日、睦さんのとこ行けませんか」

「ごめん。みなぎも遅番で、地元まだ慣れてないから、夜道歩かせるの心配で」

「そうですかぁ」


 眉を下げて俯くひなたを見ると、やはり昼間は空元気だったのが分かる。


 結果的に、あたしはみなぎとの約束を反故にせざるを得なくなった。
 ひなたが帰りたがらないところまでは、予想の範囲内だった。それならと、みなぎ達との夕飯に誘ったあたしに、彼女は首を横に振った。


「莉世さんと、二人で。話、聞いて欲しいんです。今日聞いてもらわなくちゃ、ひぃ、苦しくて……」



 後輩が死人のような顔をしている。放っておけば、グレるかも知れない。

 そうしたLINEをみなぎに送ると、彼女は何の疑いもなく快諾してくれた。お人好しの彼女は、ひなたを案じてまでいる。
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