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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
五年前のことを指して言っているのか。それにしても何故、今更、彼女はあのことを掘り起こすのか。いや、今日その話は聞いていない。
「ごめん、聞き流してる」
「えー、二分前にも言いましたよぉ」
ヒントなら、かなり回りくどいと思う。どれだけ頭をひねっても、心当たりがない。
あたしがひなたに話を促す直前だとすれば、例のごとく、彼女の軽口を笑ってあしらっていただけだ。
…──莉世さん、ゴミ集めてる時も綺麗。見惚れちゃいます。
…──でも、お客さんとかで綺麗な人見ても、ひぃは全然ドキッとしないんですよぉ。
「…………」
はっとして、あたしはひなたの顔を見る。
黒目がちな大きな目がいつになく潤んで見えるのは、シャーベットピンクのアイカラーに散らばる偏向ラメが反射しているからではない。
吸い込まれそうな彼女の瞳は、いつもこうして、あたしに何か訴えている。ことあるごとに甘える理由をこじつけて、被虐趣味な一面もあって、出逢った頃の彼女からすれば考えられないまでに、ひなたはあたしに懐ききっている。
「ひぃ、前に睦さんに言ったことあると思います。真剣な気持ちは何度伝えても真剣だし、聞き流されたら、ひぃだって、つらいって」
「──……」
「あの時も、莉世さん全然、気づいてくれなくて」