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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
ひなたの細くて柔らかな手が、あたしの指を絡め取る。
指と指の隙間や手のひらに、彼女の低体温が染み通る。膝を寄せて肩をすり寄らせてくる彼女のヘアコロンの香りが、鼻腔に触れる。
「稲本さんは、莉世さんが傷つくだけだって。時間も気持ちもすり減るだけなんて、ひぃ、本当にそんなこと思って言ってたはずないじゃないですか」
「ひなた……」
「ひぃを見て欲しかったんです。稲本さんより、ずっと前から、ずっといっぱい、ひぃは莉世さんが好きです。ひぃだけを好きって言って下さい。付き合って下さい」
いつも通りの朝を迎えて、いつも通りに出勤してきた。それが、あたしがみなぎと両想いになったと聞いて、目の前が真っ暗になったというのが、ひなたの話の核心だった。
五年前、あたしはひなたを女として見ていた。並外れた見た目に胸を打たれて、華やかな表層とはかけ離れた脆い部分に、言い知れない愛おしさを見出していた。
傷ついたひなたの瘡蓋を剥がさないために、彼女への想いに蓋をした。代わりにあたしは、彼女がいつか恋をするまでの、彼女の寂しさを埋める繋ぎになった。
彼女が結婚だの子供だのを望むような子だったからこそ、あたしではその一途さに釣り合わない。そう自己完結して、真剣に向き合うことをやめた。