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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴


「ひぃがやさぐれていた時、莉世さん、ひぃのこと狙っちゃおうかなって言ってくれたの……何であの時、あんな酷い態度とったんだろうって、一生の後悔をしています」

「知り合って短かったから。……ひなたのことよく知らないのに、顔だけで気になってたのもあったし、……」

「それでも良かったです。莉世さんが稲本さんのところに行っちゃうくらいなら、ひぃがあの時、頷いてれば」

「気づかなくてごめんね。いつから、そんな風に想ってくれてたのか知らないけど、一度話すべきだったね」

「いいえ」


 あたしの手を握って離さないひなたは、綺麗に巻いた黒髪が乱れそうになるほど首を横に振る。

 本当に可愛くて美しい。腰から流れるように襞の広がるワンピースは、彼女の上体の凹凸も見事に強調している。
 こうも隙のない女から、こうもいじらしい告白を受けて頷けないのは、待ってくれている恋人がいるからだ。あのみなぎのこと、きっとあたしが帰るまで、眠る支度もしていない。


「考えさせて。ひなたは好きだし、大事な後輩だけど……」

「分かってます」


 でも、と、彼女の飴のような声が沈痛になる。


「睦さんが、ひぃのことを気に入ってくれてるから、莉世さんは気にするんですかぁ?」

「気づいてたんだ……」

「稲本さんが理由なら、ひぃは今すぐ返事が欲しいです。……ダメなら、ひぃ、生きてる楽しみもなくなります」



 付き合ってくれなくちゃ、死にます。



 映画やドラマなら、とっくに使い古された台詞。口にしたのがひなたというだけで、重みを帯びる。
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