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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
「あゆみは、大雅を嫌いじゃないのよ。あの子が小さい頃は、良いお父さんだったから。思い出を振り返ると、本当は私に別れて欲しくない、みたいなことも言っていた」
「みなぎ次第ってとこか……。すぐに答え出なくても、ここにはいつまでもいてくれて構わないから。元々、友達としてでも、みなぎは放っておかなかったから。あゆみちゃんの学費も手伝うよ」
「有り難う。生活のことは、大瀬さんも相談に乗ってくれるみたい。それに結論は出せているの。あゆみ、どちらかと言えば、大雅と私がピリピリしているところにいるのが、イヤだったんだって。親の不和って、思っている以上に子供の負担になるものなのね。私も、あの子には八つ当たりしていたところがあった。大雅の顔色ばかり窺って……」
みなぎと再会した三週間前の夜を、思い出す。
あの日もこうして、あたしは彼女と流し台で肩を並べて、食器洗いという共同作業に感動していた。一緒に暮らせば、パートナーになれば、こんなことは当たり前になっていくのだろうと、想像ばかりが膨らんでいた。
この感情は、どう名の付くものなのか。
一途なひなたの純粋な愛に気づいた今も、あたしはみなぎが愛おしい。出来ることならこのまま彼女に次の家が見つからなければ、と、心の奥底で願っている。
「…──ごめんね。みなぎ」
「…………」
浴室へ向かう彼女が努めて顔を伏せているのを見て、あたしは彼女を抱き締めた。適度な肉づきのまるい背中に胸を押しつけて、回した腕の力を強める。
「みなぎに我慢させない、なんて言ってたあたしが、酷い我慢させちゃった」
「莉世……」
「心から、本当に好き。また友達になってくれて、ありがと。みなぎ」