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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
* * * * * * *
暦の上では夏も終わりかけているのに、今からが本番なんじゃないかというほど、毎日、猛暑だ。
みなぎ達が離婚届けを出した翌日、あたしは初めてひなたの家に招かれた。交際して一週間、いきなり改まるには心の準備が間に合わず、彼女の両親には、職場で世話になっているとだけ挨拶した。
「ええっ、それだけですかぁ?」
「じゃあ、仕事教えた……関係?」
「エイプリルフールじゃないんですからっ。お母さん、お父さん。ひぃを失恋の傷心から救ってくれた、先輩です。よく泊まりに行ってたでしょ。先週から付き合ってるのぉ」
これ見よがしに、ひなたがあたしに腕を絡める。
朗らかに娘を見守る父と母は、見たところ五十代後半くらいか。どちらも身なりがきっちりしているのに加えて、髪や肌まで念入りな手入れが行き渡っているのが分かる。
「まぁ、貴女が。ひなたから聞いていました。本当に、美人なお嬢さんね。娘が気に入ったのも分かります」
「昔の男達のことがありましたから、ひなたが女性も好きになるとは意外でしたが、娘が立ち直ってくれたのは、高垣さんのお陰です。何とお礼を言って良いやら」
「私達なんて、ひなたにはつまらないプレッシャーをかけてしまっただけでしたもの。反省していたんです。孫の顔が見たかったのに残念なんて、無神経なことまで。ひなたにはひなたのペースで、好きなように生きてくれることを、何より望んできたはずなのに」
「高垣さん、ひなたは自意識過剰なところはありますが、根は良い子です。僕達の愛娘に、また人を愛することを思い出させて下さって、有り難うございます。どうかこれからも、ひなたを宜しく頼みます」
昔のことは恥ずかしいから言わないで──…と、ひなたが口を尖らせていた。
片や彼女の両親は、目尻に皺を刻んで、時折、互いに目配せして微笑む。