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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴


 快楽が頂に達したところで、あたし達は眠る体勢を決め込んだ。

 ふかふかの羽布団でひなたと向かい合っていると、天使の翼に包み込まれている心地になる。


 ヘアアイロンの落ちたひなたの長い黒髪を、あたしは指にもてあそぶ。


「睦のとこに行かないでね、ひなた。ずっとあたしのものでいて」

「莉世さんこそ。稲本さんのこと好きなのは千歩譲って許しますけど、ひぃより好きにならないで下さい」


 ひなたもあたしも、互いに横取りで得た相手だ。
 この幸福は、睦やみなぎの悲しみの上に成り立っている。きっと響の想いの上にも。

 皆、あたし達を許して、喜んでくれた。

 償える術はない、後ろ暗さを感じたところで、何か変えられるわけではない。ただあたしに出来ることは、そうまでして得たひなたへの想いを守ることだ。自己犠牲は何かしらの見返りのため、けれど自己否定は何も得られず、きっと他人を肯定出来るだけの余裕も失くす。

 誰かに何かに強制されたのではない。自分自身で選んだのだから、最善でないはずがない。

 あたしはひなたに溺れながら、随分と遠回りした。その間、支えてくれたのも見守ってくれたのも、見つめ続けていてくれたのも、彼女だ。

 正しいだの間違いだのより、何かを選択するためのものさしとして、それはずっと重要だ。



「愛してる。…──ひなた。五年前から、ひなたがいなくちゃいけなくなってた」



 あたしの片手にじゃれつくひなたの唇から、私もです、と、胸がくすぐられる笑みがこぼれた。
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