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貴女に溺れて彷徨う
第6章 苦みを消した実利の飴
稲本大雅と別れたあとも、みなぎは響の下で働いている。
あゆみのために、今も彼とは、度々、顔を合わせていると聞く。
あの男とのことが落ち着いた頃、彼女は本格的に販売員としての研修を受けた。
「いらっしゃいませ。あっ、莉世、甘利さん」
「お疲れ様。差し入れ持ってきたよ、みなぎにはお昼のお弁当もね」
「スイーツは、ひぃが選んだんですよぉ。皆さんで召し上がって下さい」
いかにもインスタ映えを狙った紙袋を近くにいた従業員に、Tenue de bonheurのショッパーをみなぎに渡した。
ただし、後者は二年前のクリスマスデザインのものだ。入っているのは自家製弁当。昔、みなきがよく差し入れてくれていたのが嬉しかったのを思い出し、最近あたしも、冷めても美味しい料理を研究している。
「ひぃも、莉世さんのお弁当食べたいですぅ」
「言ったら作るのに」
「言うの忘れるんですぅ。でもでも、お夕飯とか含めたら、ひぃの方がたくさんご馳走になっていますから」
胸元に可愛らしく両手を当てて、首を傾げてみせたひなたは、みなぎにまで上目遣いを向ける。
「本当に可愛いわ……。あの莉世が浮気しないの、分かる」
「どういう意味。みなぎを好きな時だって、浮気した覚えはないからね」
「どうかしらね、甘利さんとも仲良くしていたみたいだし、大瀬さんのこともあるから」
「それは、……否定しないけど……。でも、心は一途……あっ、それはそうと、みなぎ今日のコーデも可愛い。もう一人前に店員さんだね」
「誤魔化したわね。…──こんなの着て、こんな可愛いお店に立って、厚顔だと思っているわ」