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貴女に溺れて彷徨う
第1章 眠り姫は魔法で目覚める
良人、稲本大雅(いなもとたいが)と暮らして十三年が経つ。
出逢った頃は、大雅こそ私の平凡で安全な人生に終止符を打つために送られてきた悪魔の使いかと慄いたけれど、そんなことはなかった。愛想の良いただの自営業者だった。そして家族に対しては、本当に平凡でマイペース。私は鏡を拾っただけだ。
「おい」
「ん?」
今日の献立は、米と味噌汁とチキンステーキ。箸休めにひじきの胡麻和え。
私が米を咀嚼していると、大雅が数分振りに口を開いた。
「化粧、変えた?」
「分かる?」
思いがけない指摘だった。
髪を切っても気づかない大雅は、顔が少し変わったくらいで分からないと思っていた。それだけ莉世が上手いのか。
見られてまずいものが残っていて、かまをかけてきた風でもない。あのあと、莉世が元通りに化粧してくれて、私も鏡で確認した。彼女が帰ったあとも、何度、鏡を覗いたか。
「濃くないか」
「そう?」
「いや、違うな。奇抜だ。何だその、芸能人みたいな顔は」
「それは、良いの?」