この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
貴女に溺れて彷徨う
第1章 眠り姫は魔法で目覚める
みなぎが悲観していただけあって、確かにあゆみは勉強が不得意そうだった。
愛嬌があり人懐こく、みなぎは疎か、あたし以上に人付き合いも得意なんだろうけれど、母親に似ず難しいことを考えるのが苦手なタイプだ。神は万物を与えないという言葉を体現している。
それにしても、こんな少女にも満たない女の子まで厚い教科書を担いで塾に通い、遊びたい盛りに過酷な受験勉強に打ち込んだ末、入学試験は志望者をふるいにかけるための難問題。そう思うと、中学受験とは滑稽だ。
「…──で、こういうこと。分かる?」
「何となく。塾の先生よりは分かりやすい。先生、早口で何言ってるか分かんないことあるもん。これで合ってる?」
「あ、そうそう。こっちは間違ってるけど、途中式は合ってるからここで計算ミスしたんだね」
「やった!」
一時間前まで解けなかった問題を解けた時のあゆみは、星空のような笑顔で万歳をした。
穢れを知らない澄んだ瞳、傷み一つない黒いツインテール。
小学生は、さしずめもぎたての果実だ。いつからこのみずみずしさを、あたし達は失うのだろう。