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貴女に溺れて彷徨う
第1章 眠り姫は魔法で目覚める
週明けのショートテストまでの範囲を一時間半ほど見たあと、あたしはみなぎと駅前に出た。
商店街が賑わう時間、もちろん解散するわけもなく、あたし達が向かったのはカラオケ店だ。
あたしはみなぎに歌を習うことにした。ここで時給を受け取って、彼女との時間が終わることだけは避けたかった。
カラオケ店が密室であることを意識したのは、受付を済ませて、個室の並んだ通路を歩き出してからだ。
微かに流れる流行りのBGMに、機械特有の匂い──…そこまで久し振りではないのに懐かしさを感じながら、あたしはみなぎと部屋に入った。
十年以上歌っていないとぼやいて、先頭を切るのも嫌がっていたみなぎは、いざイントロが流れ出すと、人が変わったようになった。今ならせりなが覚えていたのも納得がいく。
みなぎが最初に選曲したのは、少し前に流行った卒業ソングだ。
本家は、確か大所帯のアイドルグループだ。色とりどりの果実のような少女達が歌うその曲は、潔いほど爽やかで、健全で、どこか切なく、みなぎの伸びやかなソプラノによく馴染む。彼女のぼそぼそと乾いた声が、何故、歌えばここまで力強く透き通るのか。