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貴女に溺れて彷徨う
第1章 眠り姫は魔法で目覚める
冷静に考えると、みなぎが五年を費やしたことを、ものの数時間であたしが習得出来るはずない。もしや割りに合わない報酬を求めてしまったのではないか、そんな不安がよぎるのは、それだけ彼女が真剣に教えようとしてくれるからだ。
「あっ」
みなぎの声が至近に聞こえたのとほぼ同時、あたしは、それより大きな声を上げかけた。
彼女の片手があたしの腹を押さえたからだ。
「ここに集中して、息吸って、あーって声出しながら長めに息吐いて下さい。最初は声量抑えた方が、長く続くと思います」
「…………」
初夏の洋服がちゃんと薄手に出来ていると身に染みたのは、初めてだ。
みなぎがあたしに触れている。柔らかな手のひらが腹を撫でて、微かに当たった指先が、あたしの身体のすみずみまで、痺れるような波紋を広げる。
あたしはなるべく吸い込んだ空気を小出しにして、息と声を吐き出した。それでも人間の容量というのは想像以上に限られていて、あっという間にあたしは真空状態に近づいた。