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貴女に溺れて彷徨う
第1章 眠り姫は魔法で目覚める


「今で十八秒でした。ちょっと鍛えていれば素人でも一分は超えられますが、初めてにしては、ラスト三秒くらいは腹式呼吸出来ていましたよ!」

「ほんと?!やばー……これでもキツかった。でもみなぎに初めて褒められた」

「すみません……」

「何でそこで謝るかなぁ」


 みなぎの手が離れていった。

 人間など個体で産まれて個体で土に還るのに、今までくっついていたものが急になくなると、まるで自分の一部を失くした気になる。


 指導の成果が見えたことより、嬉しいのは彼女の笑顔だ。

 人一倍感情が表に出にくい彼女が、あたしと過ごす時間の中で、生気に満ちた顔をしている。


「何で笑うんですか」

「ごめんごめん、みなぎってこんな風にはしゃげるんだなって」

「あ、その……──ぁっ」


 彼女の片手を掴み上げて、身体ごと引き寄せる。

 ウエストを抱いて、逃がさないようにして、鼻先が触れ合いそうに間近に彼女を覗き込む。


「今の方が、ずっと可愛い。おとなしくしてるみなぎも可愛いけど、今の方が好き」

「……高垣さんに、好きになってもらわなくても……私には……」

「そういうの、なしだから」

「…………」

「愛してくれる人を愛する主義じゃないんだ。だからどんなにモテても、今までピンとくる人いなかった。みなぎを、あたしは待っていたんだよ」

「どういう、意味ですか……」
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