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貴女に溺れて彷徨う
第2章 醜いものは塗り隠せばいい
睦はTenue de bonheurの店舗の近くでバーを経営していて、仕事のあと、度々あたしは、ひなたとここで夕飯を兼ねて飲んでいる。
例のアプリで知り合った女との顛末を事細かに報告していたのは、同じ職場の二人だけだ。
カッテージチーズとバジルの載ったカナッペをつまみながら、あたしは少なくともあの真面目な悪ふざけの発端である睦に、優香との再会からみなぎと会ったそのあとまで、やっと話して聞かせる機会にありつけた。
優香が同級生だったという種を明かした時点で、睦はあたしが小説の読み聞かせでもしているのかと言わんばかりの顔を見せた。
悪戯げな笑顔が素敵でクールな皇子様──…一部の客達にそうした定評のある彼女のリアクションはあまりに分かりやすいもので、クールとはかけ離れている。
もっとも、事実は事実だ。
構わずあたしは、カラオケ店での、最新のみなぎとの思い出までを披露した。
「まぁ、あり得るか。私だって外で懐かしい顔に会うことあるし。もっとすごい体験談、披露してくれたお客さんもいるし」
「あ、もしかしてあの人ですかぁ?好きな女性に近づくために、その子のお兄さんと結婚して、やっぱりその子の義姉ポジションじゃイヤだ……と思い直して、本命さんと両想い確定したあと、お兄さんとお別れした人」
「そう、その人とかね。よく訴えられなかったなと思うよ」
「あたしも訴えられなかったけどね」